第0話(Prelude)





暗闇に射す一筋の光
地下にある金網で仕切られたリングでは二人の女が闘っている。

黒い髪を腰辺りまで伸ばし容姿端麗、左の瞳の色だけが紅く染まり
170を越える長身ですらりとした体系に、ほどよき筋肉を身に纏い
胸・腰・お尻といったふくよかさを象徴する場所には人並み以上のボリュームが保たれている。
その美しいまでの身体を真紅のリングコスチュームが包み込んでいる。
拳を護る為のオープンフィンガーグローブにはリングコスチュームと同じ色の特注のモノを揃え、
長い脚から繰り出される威力のあるキックをサポートしているクリムゾンレッドのレガースで
その美しき女性レスラーは相手の選手と対峙している。



話は少し前に遡る

「ふぅ〜、ここが目的の場所・・・」
長身ですらりとした体格の持ち主は街外れのぽつんと立っている喫茶店の目の前に立っている。
朝早く起きて目的の場所を探しだした時には太陽が真上から少し落ちた2時頃に差し掛かっていた。
「それにしても、今日はなんて暑いの・・・」
喫茶店の周りには何もなく、喫茶店の看板がデカデカと来客を待ち望んでいる
その看板には『With Maria』とだけ書かれ飾り気がないのが飾り気あるようにも見えた。

長身の女性はトビラを開けると“カランカラ〜ン”となんとも心地いい音が鳴り響き、招き入れられた。

「いらっしゃ〜い♪」
「いらっしゃいませ」

目の前には、栗色の髪を腰辺りまで靡かせたなんとも上品で美しい女性が微笑みながら私を出迎えてくれた。
厨房の方には本を片手に、イスから立ち上がろうとするメガネをかけた可愛らしい感じの女性がいる。

喫茶店はシンプルで飾り気もないがどこかしら落ち着きのある空間で
なんとも居心地がいい。

周りを見渡すと、カウンターにはグラマラスな美人の女性がこちらを見てニコリとしている。
その近くにあるテーブル席にはカップルが座っている。そのカップルは対面には座らずに横並びに座って
彼女のほうは彼の左腕をギュッと握り彼を見つめ、彼は窓越しに右肘をついた状態で外にある流れる雲を眺めている。
ふとこちらに気付き、ちらりと横目で私を見ると目と目が合い、もう一度窓の外の風景を見つめている。

「立ったままでどないしはったんですか?」

目の前にいる店主らしき女性が声をかけてきた
ここは関西?京都?という感じの口調で、この雰囲気がこの空間を作っているのだろうと直感した。

「あ・・・あの・・・尋ねたいことが・・・」

ここに来た用件を思い出し、私は女性マスターに話しかけた

「まぁ立ち話もなんやし、ゆっくりこちらにでも座りはったら・・・」

とカウンターに誘導され、おしゃれなイスのカウンターに座ると

「ッ!!」

気がつくと、隣にぴったりとその女性も座り込んだ・・・

「マ、マリアさん!!」

厨房からメガネをかけた女の子が注意する

「あらら・・・これはこれは・・・」

と悪びれる様子もなく、メニューを差し出した。
流されるままコーヒーを注文し、メニューを返した時
“ギュルルルル〜”と女店主にだけ聞こえるぐらいの音が鳴ってしまった・・・
私は恥ずかしくなって頬を赤らめると、女性店主は

「・・・文ちゃ〜ん、サンドイッチ作ってもらわれへんかなぁ?」

と厨房に向かって声を上げる。
厨房の文ちゃんは

「さっき、食べたばっかりじゃ?」

と疑問そうに言っている。

「・・・いや・・・」

と、私は恥ずかしそうに声に出したが、

「・・・うち食べたなったん、よかったら一緒に食べまへん?どうどす?」

と気を使ってくれたので彼女の言う通りに従った。

そして、私は本題の話をその店主に聞こうと店主を見ると店主も両肘をつき手の甲に自分の顎をのせ
食い入るように私を覗き込んでいる。少し驚いたが、私は話を進めた。


「・・・・・・っで、聞いてくれています?」

私は私ばかり見ているマリアという女性に尋ねた

「う〜ん、難し話しはるんやねぇ、って感じやったんやけど・・・」

「聞いて・・・なかったんですか・・・」

「う〜ん、簡単にゆうたらそんな感じになるんやろか?それよりもべっぴんな顔に見惚れてしもて・・・」

「マリアさんまた・・・」

上手い具合にコーヒーとサンドイッチを持って来てくれた文ちゃんは呆れた顔でマリアさんを見、
すみませんという顔をしながら私にお詫びの一礼をしてくれた。

「この人美人に目がないのよねぇ」

カウンターにいた美人の女性が話に加わった。

「そやゆうても、こんなべっぴんさん最近みはったことあるん?ねねはん」

マリアさんはカウンターの女性に名前で呼んでいる事でこの人は常連であるんだろうと気付いた。

「それはそうだけど・・・フフッ・・・・・・御堂さんも相変わらず・・・」

グラマラスなねねさんは嫉妬深そうに笑いながら私を見つめる。

「そや、そや、それでお名前なんていいはるん?」

マリアさんペースの会話についつい

「天城愛といいます」

と答えてしまった・・・

「そう〜、アイはんっていうんやね・・・アイはん・・・」

と、直後
マリアさんは私の唇に“チュッ”とキスをした

「っ!!」

驚きのあまり目が点になってしまって、固まってしまった。

「やっぱり、柔らかいわ〜」

「マリアさんっ」

ついつい声を出してしまった文ちゃんにマリアさんは

「最近、チュ〜してくれはらへんからねぇ〜文ちゃんは・・・」

「そ・・・そんな・・・・・・」

顔を赤らめ厨房にダッシュで駆け込んでしまった・・・

「そない止まらんでもえぇやんなぁ〜、お詫びゆうことでこれ全部食べてくれはりゃしまへん??・・・フフッ」

なんとか冷静を取り戻すが、なんともやるせない空気になるのだが
マリアさんの微笑みに負けてしまい食事をとることになった
出されたものをものの見事にペロリと平らげた愛は食後のコーヒーを美味しく召し上がった。

「・・・お、美味しい・・・・」

「そやろ、ここのコーヒーほんまにおいしいですやろ?うちのお店の自慢どすぅ〜〜♪」

嬉しそうにマリアさんは答えた。

「それにしても、えらい食べっぷりしてはんなぁアイはんは・・・」

「・・・あ・・・あの・・・さっきも言ったように私、女子プロレスラーしてるんです」

「へぇ〜そんな事ゆわはったん?聞いてまへんでしたわ。女子プロレスラーしたはりますの。よう見たら強そうやわべっぴんさんやわで、ますます惚れてしまいそう〜〜♪」

楽しいのか?楽しくないのか?不思議な空気が漂っていたのだが一瞬にして場の空気が変わった・・・

“ガチャ”“カランカラーーーーンッ”

扉をすごい勢いで開けて容姿端麗の紫色の髪の女性がお伴を引き連れて現れた。

「いらっしゃ〜い♪・・・・・・あら、お景はん♪」

「まだ、こんな事をしているの?それに・・・」

周りの状況を見て、少し怒り気味の女性はマリアに詰め寄った。

「マリアあなたはここにいるべき人じゃないはず・・・私と一緒に・・・いやっ・・・私ともう一度勝負を・・・」

訳がわからない会話だが勝負という言葉に愛は

「どういうことかわからなけど、勝負ってやっぱり・・・その前に手を離してあげなさいよっ」

「あなた、誰?」

愛と同じくらい?の身長のお景と言われる女性は愛を睨みつけるとまずはマリアの腕を握る手を離した。

「冷静になりましょう・・・悪かったわね、マリア・・・」

「・・・・・・だ、大丈夫ですか、マリアさん・・・」

「大丈夫、心配いりまへん、文ちゃん心配あらへんから」

「か・・・神楽さん・・・マリアさんはもう試合には出ません・・・」

文ちゃんは何やら知っていると思われる神楽という女性に言い放つと

「そうよ神楽さん、御堂さんは試合には出ないのよ、あなたもわかっているんでしょ?」

カウンターのねねさんもマリア組に加勢していく

「ねね、あなた私にこの前に試合で負けたからってここでマリアに慰めて貰って、油を売ってるよりも練習でもして私に勝てるようにでもなりなさいっ。昔のあなたはもっと負けず嫌いだったでしょ?」

急に話が熱くなり不穏な空気になり始めていく

「文ちゃん、ぶぶづけでも作ってあげて・・・ってウソやけど・・・」

マリアさんは突然不思議な言葉を言って場を和ませた。

「まぁそない熱くならんでも、熱いのは試合だけにしてくれまへんか?・・・フフッ」

「試合には出るということ?」

「そういう意味ちゃうちゃう・・・ちゃうちゃう・・・」

「まぁ今日の所は関係のない人にも迷惑になるからこの辺で引き下がるわ、でもねマリアあなたを求める人もたくさんいるって事もわかってあげて欲しいわ・・・じゃ・・・」

「・・・ちょっと待ってよ」

「っ?!」

愛は去ろうとする神楽の肩を掴んで離さない。

「・・・やっと見つけた・・・あなたねUG-STYLEの女王、神楽景子っていうのは!!私と勝負しなさいっ!!」

天城愛は神楽景子の事を知っているようだった・・・

「天城愛覚えているよね?」

愛はこの神楽景子に用がありここに来たという雰囲気であるのは間違いないようで
今までの愛とは違う雰囲気を醸し出している。

「・・・?!・・・・・・アマギ・・・アイ?・・・・・・天城愛さん・・・もしかして女子プロレスラーの天城さん?私もあなたに会いたかったのよ!!UG-STYLEに参加していただきたくてオファーを何度も打診したんだけど失踪してるって・・・」

「そうよ、その天城よ!!あなたに倒された・・・後輩の敵・・・・・・っ!!」

殴りかかろうとしたその瞬間、その拳をなんなくキャッチされた。

「・・・武内さん」

神楽さんはそのショートヘアの人とも知り合いのようだ

「なんてことするの?だから女子プロレスラーは暴力的なのよね!!私たちのデートの邪魔を・・・」

ツインテールのゴスロリの衣装に身を包んだ子悪魔的な少女は言い放つ

「・・・吉崎さん」

神楽さんはこの人も知っているようだ。

「女子プロレスラーさん、何事にも順序っていうものがあるんだよ」

「かっこいい、武さまぁ〜♪」

「何よ、あんた?」

「・・・武内つばさ」

「武さまに名を名乗らせるなんてっ」

「そうね、私に対戦を要求するのはいいけれど、私もいちいち対戦相手にかまっていられないわ、武内さんお相手してあげてね」

「ま・・・待ちなさいよっ」

そういうと神楽は喫茶店から立ち去った。

「せっかくのチャンスを・・・」

「勝ち続ければ女王との対戦権を得られる・・・簡単でしょ?」

「・・・お・・・女?」

「・・・フッ・・・君も間違ってたみたいだね」

「・・・いやっごめんなさい・・・」

「かまわないよ、でも神楽さんと闘いたいなら多くの相手と戦いランクをあげ、トーナメントで優勝しないとその権利を得られられない。わかるかい?つまり、ここにいる人全員に勝たないとあの人とは闘えない・・・例外を除いてはね」

「・・・ここいるって?」

「そうよっ!ここにいるメンバー全員UG−STYLEの選手なのっ!女子プロレスラーは何も知らないのねっ」

「あなたも選手?」

「うっさいわねぇ〜!そうよ、武さまよりも弱いけどねっ」

「よかったら、私と勝負してみない?」

武内つばさと名乗るボーイッシュ女性は天城愛に挑戦状を叩きつけた。

「・・・わかったわ、全員倒せばいいんでしょ?闘うの好きだからいいんだけどね」

「武さまぁ〜どうしてあんなのと闘う?私がケチョンケチョンにしてあげますっ」

「女子プロレスラーのチャンピオンの強さよりも空手のほうが強いところを見せてあげるわ、最強は空手というのを・・・」

二人は喫茶店から出て行った。

「あらら・・・なんだか面白いことになってきはったわ〜。たぶん何もアイはんわからないと思うから、文ちゃん身の回りのお世話たのみますえ・・・」

「・・・わ・・・私ですか?・・・」

「・・・そっ!アイはんはようさん食べはるみたいやし、文ちゃん料理の腕の見せ所やねぇ〜。料理上手の文ちゃん♪」

「・・・ほんとにですかぁ〜〜〜〜〜っ」

「ほ・ん・と♪」

「それにしても、マリアの周りは色んな人が集まるわね、それになんだか楽しそうね?」

「そう?みんな楽しゅうなりはったらえぇんやけどねぇ〜。人生楽しゅうせんともったいおすえ♪」




次回、天城愛vs武内つばさ?




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