第1話

〜東京都下の地下施設〜

「東京のこんな場所にこんな施設があったなんて・・・」

送られてきた手紙の標す場所へと愛は文とベッキーと一緒にやってきた。
施設入り口で暫し待っていると、黒尽くめの女性がやってきて愛に挨拶
続いて、知り合いのベッキーと文に挨拶をしていく。

「はじめまして、天城様。今日あなたのお世話をさせていただくことになりました者です。今後ともよろしくお願い致します。ベッキー様に服部様もいつもご参加の程ありがとうございます」

簡単な挨拶を終えると、黒尽くめの女性は3人を施設内へと案内する。
文は少し怪訝な顔でその施設へと入っていく。

「へぇ〜こんなに広い場所なんて誰が作ったの?」

愛は黒尽くめの女性に尋ねると

「簡単にUG−STYLEの説明をさせていただきます・・・」

と言うと、説明し始めた。
UG−STYLEという団体は一人の女性が創立した。
資金面はその女性と数多くの出資者で成り立っている団体である。
ただし、資金面だけで団体経営は基本的には女王が支配権を握っているので女王の変動と共に
多少の経営方針は変わっていくというのだ。
ここ1年は女王・神楽景子が不動の女王として君臨しているために方針はさほど変わっていないということである。

「・・・ここが天城様の控え室となっております。時間になりましたらこちらからお呼びさせていただきます」

黒尽くめの女性が一通り話し終えた時には愛の控え室らしい場所に到着したらしく
深々とお辞儀をしドアを閉めて黒尽くめの女性は去っていった。

3人だけとなった控え室では変な空気の時間が淡々と過ぎていく
誰が話すわけでもなく(ベッキーはアニメ雑誌を読んでいるが)
愛は不慣れなオープンフィンガーをつけながら暫しの時間を過ごしている。

「ごめん、悪かったわ・・・だから文ちゃん・・・」

ほっぺたを風船のように膨らませ文ちゃんは何も答えない。
イベント関係者に怒られた上に置いてけぼり。携帯電話をかけても通じない・・・
結局、愛とベッキーが気付いた時には、もう空は暗闇になっていた。
あれから数日文ちゃんは愛に手料理も作ってくれない事態にまで陥っていたのだ。

「今日はこのリングで闘うの初めてなんだから機嫌直してよぉ〜」

この前の喫茶店での一件で愛はこのリングに上がることになり
対戦相手も武内つばさからのご指名という形でトーナメントやランキング戦とは別の
エキシビジョン戦が今日行われる形であるとだけ聞かされていた。
愛は突然親指と中指でで文ちゃんのほっぺを破裂させると

“ぶぶぶぶぶ・・・”

という滑稽な音がしたが、

「知りません」

とだけ言われ、ぷいっとされた。

「仕方アリマセン、文ちゃん!!文ちゃんくの一なんですからそんな表情すると敵に気付かれますデス」

「えっ?文ちゃん忍者なの?」

ベッキーの一言に驚いた愛は文ちゃんに聞くと

「ベッキーさんが言ってるだけです、名前が服部だから・・・ぷいっ」

「忍者ハットリさんの末裔デスよ、愛。」

「忍者ハットリさんて漫画の?・・・まぁその話は今度でいいけど・・・。今度で思いついたけど、この試合勝ったらご飯食べに行こっ!文ちゃん」

そう言った時“トントン・・・”というドアを開け黒尽くめの女性が覗き込むと

「愛選手時間です、どうぞ」

と優しくエスコートされ試合がもう少しで始まるようであった。

「よっし!!」

オープンフィンガーグローブ越しに両手の拳を2度ほどぶつけ合うと座っていた場所から立ち上がりドアをあける。

「グローブなんてはめるの初めてだ・・・」

グローブの感触がなじめない愛は入場ゲートの裏側で待機する。

「それにしても第1試合なんて久しぶり・・・」

天城愛はチャンピオンのまま消息を絶った後、久しぶりのリングに立つわけである。
第1試合目の試合なんて新人の頃以来。
愛は不思議な感じであったが、新たなリングでの再出発であり
再びリングに上がる嬉しさを噛み締めながらあのテーマソングを心待ちにする


「今日もUG−STYLEにご来場いただき誠にありがとうございます」

リングアナが満員の観客に一声を上げる

「今回第1試合目にエントリーするのはこの選手・・・」

会場の照明が消えると、会場全体に大音量の『ボルケーノライジング』のテーマソングが鳴り響く。
観客の一部はこのテーマソングを聴いた瞬間に驚きを隠せずに歓声を上げ雄たけびを上げ始める。
そして、入場ゲートに一筋の光が注がれると
天城愛が入場ゲートに姿を現す。と、炎が燃え上がりプロレスの女王を歓迎した。
失踪していたプロレスの女王がまさかこのリングに上がるとは誰もが予想しなかったであろう。
だが、最強の称号を手に入れた女戦士はUG−STYLEのリングに現れたのだ。
ゆっくりと観客を見渡しながら歩く姿は女王の風格を備え
初めて参戦するとは思えない落ち着きに満ちた表情を浮かべながら
リングに繋がる一本の道を堂々と渡っていく。
リングインと同時にセコンドに付くベッキーと文は愛をリング下で待ち受けた。

「続きましての登場は・・・」

音楽を聴いた瞬間、観客にいる女性ファンは

「「「タケさまぁ〜〜〜」」」

「「タケさまーーーーっ」」

そこから黄色い歓声をあげると
アイドルの登場シーンを待ち侘びるうら若き乙女の姿となり武内つばさを招きいれた。
入場ゲートにつばさが現れた時には黄色い声マックス状態で
失神しそうなファンも現れそうな雰囲気が包み込もうとしている。

喫茶店で見た時のつばさはシャツにジーンズといった格好だったのだが、
今は戦闘モード全開といったように空手着を身にまとっている。
一歩一歩進むたびの黄色い声援。
このリングでつばさがどれだけの人気実力を秘めていることが手に取るようにわかるようだった。
つばさがリングに入る直前立ち止まると合掌をし、手を額に当てると暫しの間静寂が流れだす。
その静寂を裂くように、顔の前で腕をクロス状態から下方に空を斬りながら気合の入った声が場内に響き渡る。
つばさはその勢いでリングに上がる。

それを自軍コーナーから見つめる愛の眼も完全に戦闘モードに変わっている。
つばさは空手着を脱ぐと、セコンドのゆめに空手着を渡すと
蒼いスポーツブラタイプとスパッツといった様相に様変わりした。
つばさの体は鍛えられ筋肉美がファンを魅了する。

「これよりUG−STYLE今日の第1試合を行いますっ!」

リングアナは淡々とした感じで進行を始める。

「今日の対戦方法は武内選手の申し出によりアルティメットスタイル。10カウント、ギブアップのみの決着方法で凶器の使用は認められません・・・」

リングアナは会場に来ている観客に説明し始める。
上手な語り口調に何者かわからないがプロであると感じられた。

「女子プロレスの元女王がUG−STYLEに只今見参!!プロレスラーは一体全体どれだけ強いんだ!!今その力を私達が目撃!!『ボルケーノクィーン』天城ぃ〜〜〜〜あ〜〜〜いぃ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

右手人差し指を天高く突き上げ愛は観客にアピールをする

「その拳に貫けぬものなどない。空手一筋『打撃ワルキューレ』武内ぃ〜つばぁ〜さぁ〜〜〜っ!!」

リングアナが観客を盛り上げると第1試合から興奮の坩堝と化した。

「あれってベッキー?なんでいんのよ?ですよねタケさま?」

セコンドからゆめはつばさに聞くが試合に集中し、無視されてしまう。

二人はリング中央に歩み寄るとレフリーのチェックを受け再び自コーナーに戻り
ゴングが鳴り響くのを待った。

「っ!!」

愛は普段上がっていたリングとの違和感に気付くが
カァァァアアアーーーーンとゴングの音と共に打ち消された。

両者は構えるとじわりじわりと相手との距離を縮めていく。
先手を打ったのはつばさ。右下段蹴りを放つと愛は足を少し上げガードの体勢に入る。
ガードされたつばさはもう一度右下段を放つ。
またもやガードした愛はお返しにジャブ気味のパンチを放つ。
つばさは首を少しだけ移動させ最小限の動きでかわすと
つばさは中段突きで愛のボディを攻める。鍛えられた体に突き刺さる右左の拳。
直後またもや下段蹴り。防戦一方になる愛は右拳をブンとふり回すが余裕でよけられてしまう。
隙が出来た愛の左内腿につばさの左下段が攻めると愛はバランスを崩されそうになる。
踏ん張る愛を余所につばさは愛のボディへと右左の連打で攻め立てると
愛はボディに意識を集中し始めると今度は下段蹴りで両足を攻められる
防御も少しづつ後手後手に回る愛は一旦距離を取ろうと後ろに体重を移動し体勢を立て直した。
つばさはその後方への動きに合わせると、愛のお腹へ膝を突き立てる

「・・・っ!!・・・・・うぐぅっっっ!!」

ボディへとグサリと突き刺さるつばさの左膝。
声が漏れた愛はたまらず両手をお腹へと移動させうずくまるように頭が下がる

この膝の攻撃で終わらせようという考えのないつばさの攻撃を予測し
防御体勢に入る愛はつばさの右足が動く瞬間左足を上げガード・・・
と思った瞬間

・・・・・・ドサッ!!

長身の女戦士はリングに横たわっていた・・・

愛は下段をガードしたと思った瞬間
つばさはノーガードの愛の側頭部への上段蹴りが完全に決めていた。

1(ワァ〜〜ンッ)・・・・・2(ツゥーーーッ)・・・・・3(スリーーーッ)・・・

レフリーの淡々とした声だけが場内に響き渡る・・・

一瞬の出来事であった為レフリーのカウントで観客はドッと湧き上がると
会場はヒートアップし始めた。

バタリと倒れたままの長身の女子プロレスラーは動く気配もなく
カウントだけが進められていく

・・4(フォーーーッ)・・・・・5(ファ〜イブッ)・・・・・6(シィ〜〜ックス)・・・

「立ってください愛さん!!」

ドンドンとマットを叩きながら文は意識のない愛を応援するが立つ気配すらない

「愛さんっ!!勝ってご飯食べに行くんですよね!!愛さんっ!!」

・・7(セェブ〜〜ンッ)・・・・・8(エェ〜〜イトッ)・・・!!

カウントをあと少し言うだけでつばさの勝ちが決まりそうになった瞬間
ものすごい勢いで長身の戦士は意識を取り戻し
ガバッと仁王立ち状態となった。

「ぎぃたぁーーっ!・・・一瞬意識飛んでたわ・・・危ない危ない・・・」

独り言を言いながら愛は首をブルブル震わせ、ファイティングポーズをとる。
レフリーは驚きの表情を浮かべながら愛の元で確認を行う

「・・・大丈夫?まだ闘える?」

簡単な意識確認に愛は答えるとレフリーの判断で試合続行となった。

「・・・甘く見てたわ。・・・あなた強いねっ」

愛はつばさに声をかけると、フフッといった表情でつばさは答えた。

「・・・これ使いづらい・・・はずしていい?」

突然、愛はオープンフィンガーのグローブを外し
いつものプロレススタイルとなると
両手を使い自分の頬に2、3度張り手をし、気合を入れ直すと
腕をブンブンと振り回し始めた。

「行くよっ」

愛は猛ダッシュでつばさに突っ込むと
つばさの直前で突然ジャンプをし、意表をつく打点の高いドロップキックを放った。
何事が起こったのかわからない観客と同様につばさも愛のジャンプに驚きを隠せないまま
気付いた時には防御すら遅れ、ドロップキックは綺麗につばさを捕らえた。

「・・・うっ!!」

綺麗な弧を描き愛は着地すると、つばさを確認すると今度は
腕を水平に出し、つばさの首元めがけラリアットが炸裂する
防御方法も知らぬままつばさは斧爆弾の餌食になるとマットに叩き伏せられる

「・・・ぐはっ!!」

マットに叩きつけられたつばさは体勢を立て直そうと立ち上がろうとした瞬間
愛は膝を突きたてるとつばさの顔面めがけてシャイニングウィザードを見事に命中させる

「よっしゃーーーっ」

華麗なプロレスの連続技が決まると愛は観客にアピールしつつ
何かを待ちわびている。
連続技を喰らいつばさはフラフラとしながらロープを利用しつつ立ち上がる

「・・・っ?!」

つばさは視界から消えた愛を見つけた瞬間
愛は一本の矢と化したスピアーをつばさの腹に突き刺した

「・・・ぐ・・・・・う゛ぎぃっ」

コーナーポストと巨人レスラーのタックルに挟まれたつばさは
お腹に今まで感じたことにない痛みを味わうと口から何か出そうな気分に陥った・・・

「・・・はぁ・・・はぁ・・・ぐっ・・・ぉお゛ぐっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

なんとか我慢で耐えたもののお腹への攻撃がかなり効いたようで
今すぐマットに倒れ伏しそうになっている。

つばさの短い髪を鷲掴みにすると
愛はつばさを中央へ移動させ、つばさをいとも簡単に反対向かせ
背後を取ると

ジャぁーーマぁーーーーーーンッ!!

愛はいつも決めゼリフで雄たけびをあげる

つばさの体は愛の力強い腕っ節で天高く舞い上がると
一瞬で最高点まで浮き上がらされると、無重力状態から一気に重力下へ誘われる。

バゴォォォーーーーーーーンッッッ!!

マットが壊れるかというほどの音が辺りに響き渡ると
つばさは九の字状態のままマットに突き刺さった

徐に愛は手のクラッチを離すとつばさはグラリとマットに倒れこんだ
それ以後つばさは立ち上がることが出来ずに
10カウントのゴングが耳に届かないまま敗北となった


つばさが目を覚ました時には
今にも泣きそうなゆめとその後ろから手を差し延べる愛の姿が映った

「・・・負けたのね・・・プロレスラーに・・・」

ぼそりと言うつばさに

「・・・ほんのちょっと私が強かっただけ・・・プロレスラーというより私があなたより強かっただけ・・・」

「・・・負けたわ・・・あなたに・・・」

なんとも言えぬ笑みを浮かべながらつばさはまた深い眠りについた



○天城愛(7分24秒 天城越境原爆投げ)×武内つばさ


愛はテーマソングにのってリングからセコンド二人を連れ立ち去った。
先ほど案内してくれた黒尽くめの女性が控え室へとエスコートをしてくれるよだ
女性に連れられ控え室のドア付近まで辿り着くと

「再び天城越境原爆固めが見れるなんて感激です」

「?!」

「私ファンなんです、ずっと前から!!だから今日は天城さんをエスコート出来てそれに・・・」

黒尽くめの女性は突然愛に話しかけてきた。
聞く処によると黒尽くめの女性は前々からプロレスのファンで特に天城のファンらしく
天城失踪という事件に深く悲しみだったようだ。
そこで失踪した天城を探し再びリングへと戻ってきて欲しいと願い
天城を探しUGのリングへと上層部に掛け合ったというのだ。
そして、今日から天城のお手伝いならなんでもするということで
まずはエスコート役を買って出たということらしい。

「まさか今日この試合で越境ジャーマンがみれるなんて・・・」

突然の涙を流し女性は感極まっている。

「まさか、このリングで投げとは驚きデス」

ベッキーも文もビックリしていたようだ

「・・・だってこのリングに上がって気付いたの・・・結構マットが硬いって・・・普段のプロレスにはない硬さに・・・これならひょっとして投げとか有効じゃないかなって!!まぁ勝てたんだし!!」

あっけらかんとした感じで愛は話した。

「勝ったで思い出したけどぉ〜ねぇ〜文ちゃん覚えてるわよね〜」

「なんですか?」

「ご飯行くんでしょぉ〜文ちゃんのおごりで!!」

「なんでそうなるんですかーーーっ」

「あなたも行きましょうよ!!これからの親睦ってことで」

「はい、行きます」

黒尽くめの女性は嬉しそうに答えた。



オリジナルTOPへ

inserted by FC2 system